「クラフトビール造りで大切にしているのは、『おかわり』をしてもらえるかどうかです」。仙台市中心部初となる醸造所「BATSUJI BREWING(バツジブリューイング)」のブリュワー・畠山崇裕さん(37)の言葉に力が入ります。
東日本大震災を機に警察官から転身してビール職人を意味する「ブリュワー」になった異色の経歴の持ち主。この道10年の経験と知識を総動員して挑んだ「メイド・イン・仙台」のクラフトビールがついに完成しました。
10月8日から仙台市青葉区の複合施設「CROSS B PLUS」で提供が始まります。造り手の思いを聞きました。
2種類のヘイジーIPAとずんだヘイジ―が登場
BATSUJI BREWINGで提供するビールは
最初に仕込んだビールは、アルコール度数の低いヘイジ―IPA。次に、アルコール度数を上げたヘイジ―IPA。そして、宮城県産の枝豆をふんだんに使った「ずんだヘイジ―」です。
ヘイジ―IPAは、自分のブリュワー人生の中でも「最高傑作」と言ってもいいくらい、美味しいビールが出来ました。品質の高いホップと酵母を用い、そして何より私が愛情を注いだ成果が表れたと思います(笑)。
「おいしい、もう1杯!」を造ることがブリュワーの役割
ビール造りで大切にしていることは
私が目指すのは、「おかわりできるビール」であることです。自分が造りたいと思ったビールを造っても、お客さまに「おいしい」「また飲みたい」と思ってもらえなければ、それはただの自己満足。
クラフトビールは大手の量産品に比べて単価は高いですが、それでもお金を払って2杯目を飲みたいと思えるものを造ることが目標です。
大きなことをいえば、100人が飲んで100人がおかわりするビールが最終目標。自分本位のビール造りではなく、あくまで客観的に、お客さま視点でのビール造りを心掛けています。
「おいしい、もう1杯!」とおかわりしてくれるビールを造って、次々新鮮なビールを楽しんでもらうことが、我々ブリュワーの役割です。
ひたすらに、がむしゃらに ビール造りと向き合って
ブリュワーとしての歩みは
東日本大震災が転機になりました。それまでは神奈川県で警察官をしていたのですが、故郷の力になりたいと思いまして。生まれ育った宮城県加美町に2011年に戻り、地元の「やくらいビール」に入ってブリュワー人生をスタートさせました。
それから8年間はがむしゃらにビール造りに取り組みました。ビールは何百種類も飲みましたね。ビールに対する味覚にもっと磨きをかけたかったので。先輩ブリュワーさんが勧めてくれるものは全部飲みましたし、全世界のクラフトビールを制覇するくらいの気持ちでした。
もちろん、技術の習得を目指して、地産地消の素材にこだわって造るビールが自慢の「ろまんちっく村」(栃木県)に研修にも行きましたし、オリジナルビールのレシピを作るために、化学とか数学も勉強しました。6年かけて積み重ねた経験が自信と手応えとなって、お客さまから「おいしい」と言ってもらえるビールを造れるようになりました。
それからは、ビール造りと両立しながら、東北はもちろん全国のイベントに出張して、自分の手でお客さまに自慢のビールを届けました。お客さまの声を直に聞き、目標とする「おかわりしたいビール」造りに生かしてきました。
「仙台でクラフトビールファンをさらに増やす場所を作りたい!」。次のステップとして、「職人」の域を超えてビールを提供する側「ビアパートナー」を目指そうと考え始めていました。
そんな時、岩手県花巻市でブルワリー「Brew Beast(ブリュービースト)」を立ち上げたばかりの方に「設備だけはあるけれど、ノウハウもなくうまくいかない」と相談されて…。それでBrew Beastで1年半、醸造所の基盤づくりや後継者の育成、経営マネジメントを担いました。
噂のブルワリーに「立候補」
BATSUJI BREWINGでの挑戦を決めた理由
今の自分があるのは、人とのつながりがあってこそ。やくらいビールに入社するときも、ブリュワーとしてビール造りを始めてからも、そして仙台に来るきっかけをもらったのも、すべて「人の縁」です。
特に、BATSUJI BREWINGの話は、花巻にいる時から業界内では噂になっていました。2021年1月、立ち上げに関わっている方から「噂のブルワリーでビール造りができる人を探している」との情報をもらいました。
花巻も軌道に乗っていたし、仙台のど真ん中でビールが造れて、しかもレストラン併設。お客さんとの距離が近くて、クラフトビールファンも増やすお手伝いができる。「わたしでどうですか」と立候補しました。「とにかくチャレンジしてみたい!」というワクワク感でいっぱいでしたね。
クラフトビール造りの魅力「一生の仕事にしたいくらい」
BATSUJI BREWINGでの目標は
BATSUJI BREWINGがクラフトビールに興味を持つきっかけになったり、もっと好きになったりする場所にしたいです。
併設のレストラン「CROSS B PLUS」と連携して、東北・新潟の魅力をいっぱい詰め込んだビールを届けますから。「もう樽が空になりました」ってレストランから嬉しい悲鳴が上がって、私を困らせるぐらいたくさん飲んでもらいたいですね。
「工場を拡張しないと間に合わない!」と焦ってしまうほど、多くのお客さまが口にしてくれたら、ブリュワー冥利に尽きますね。
ビール造りの面白さは、おいしいビールを造ったその先に、人と人とのつながりができることです。造り手が現場に出て、お客さまの顔を見ながら会話して、交流が深まっていく…。一般的な製造業ではなかなか味わえない喜びに満ちています。
ブリュワーを一生の仕事にしたいと思えるぐらい、クラフトビール造りの魅力に取りつかれた私のビールを飲みに来てください。
※河北新報オンラインニュースでも「BATSUJI BREWING」の記事と動画を掲載しています。
10月8日から「CROSS B PLUS」で販売スタート。